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社 説 山陰固有の地域振興 闇や裏の文化生かそう
2012/05/13の紙面より
人口最少県の鳥取県と全国で2番目に人口が少ない島根県。明治以降の東京一極集中、太平洋ベルトライン偏重の経済政策の中で、山陰は開発から取り残された代表的な地方だ。半面、江戸時代以前からの古い文化や豊かな自然が残されている地域である。
鳥取県で「まんが王国」の建国、島根県で古事記1300年祭と両県で大きなイベントが展開される今年、山陰固有の地域振興のあり方について考えてみたい。 自然を畏怖する心松江ゆかりの明治の文豪、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)のひ孫の小泉凡・島根県立大学短期大学部教授が境港市で「文化資源として生かす『異界』−小泉八雲と水木しげるをめぐって」と題して講演した。アイルランドの伝説や日本の幽霊、日本の妖怪や世界各国の精霊にそれぞれ魅了された八雲と水木さんの共通点を紹介。「二人とも自然を畏怖し、人間を自然の一部のちっぽけな存在ととらえる感性がある」とし、「遊び心を持ちながら、異形や目に見えないもの、芸術などを観光や地域文化の創造にもっと活用を」と提言した。 小泉八雲も水木しげるさんも作家・漫画家として光より闇、表より裏、権力より民衆の側に立つタイプである。 八雲は、日本が欧米の列強に追いつこうと西洋文明に躍起になっていた明治時代に、日本の古い民間信仰や風習、昔話や神話などを再評価した。「日本人は自然や人生を楽しく謳歌(おうか)する魂を持っている」とし、「日本の知識階級は超自然的なものを侮辱する嫌いがある」と批判。古事記を愛読、その舞台の松江、出雲など山陰の歴史遺産や自然、人々の素朴さを愛した。 境港市出身の水木さんが生み出した漫画の主人公・鬼太郎は墓場で生まれた幽霊族の末裔(まつえい)。同時代の人気漫画家、故手塚治虫氏が生み出した科学の子・鉄腕アトムがいわば光のヒーローなのに対し、鬼太郎は闇のヒーローだ。鬼太郎ファミリーの妖怪たちは、自然とともに暮らし、人間の行き過ぎた欲望の象徴である悪い妖怪たちをやっつける。 科学の発展の陰で山陰の裏の魅力といえば、1980年代初めに大ブームを起こしたテレビドラマ「夢千代日記」(脚本・早坂暁)も挙げられよう。吉永小百合が扮(ふん)する胎内被爆児の芸者・夢千代を主人公に、山陰の小さな温泉街で身を寄せ合って生きる人々の哀しくてユーモラスな人情ドラマが茶の間の共感を呼んだ。昨年3月に起きた東日本大震災は、自然への畏怖を失ってはならないことを浮き彫りにした。合理的、科学的、発展を金科玉条としてきた近代、現代日本をおおむね是としながらも、その陰で失われてきた元来の日本や日本人の美質を再評価すべき転換点を迎えている。 「傲慢(ごうまん)」の対極の「謙虚」を大事にしたい。山陰人として、人間と自然との共生や助け合い、もてなしの精神を心掛けながら、八雲や水木さんが見いだした山陰の魅力に趣向を凝らして磨きをかけ、全国発信を続けたい。 山陰が有する闇や裏の文化資源を活用しつつ、日本海を挟んで対岸諸国に近い立地条件を生かして地域振興を図ろう。
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